会長挨拶

第37回日本外傷学会総会・学術集会 会長挨拶

会長 写真

第37回日本外傷学会総会・学術集会
会長 金子 直之
(日本赤十字社 深谷赤十字病院 副院長
/外傷・救命救急センター長)

謹啓

 この度、2023年度の第37回日本外傷学会総会・学術集会会長を拝命し、同学会を2023年6月1日(木)-2日(金)に名古屋で開催する運びとなりました。

 外傷は長年に渡り若者の主たる死因であるにもかかわらず、医学で深く論じられることなく時代が過ぎてきました。外科系の各専門性はもちろん重要ですが、疾病手術に長けていることが外傷手術にも長けていることにはならず、また専門家が集まっても「木を見て森を見ず」になりがちで、これでは真の重症、特に多発外傷や重篤なショックは救命できません。致命傷の早期診断と対処、治療の要不要と優先順位の決定、病態の把握、適切な時点で適切な治療的介入など、広範囲の「戦略と戦術」が必要で、これらが調和してこそ初めて救命できるものです。本学会は日本で唯一、これを深く扱っている学会と認識しております。

 しかし一方で外傷の診断・治療法の変遷を考えますと、大きな発達はあるものの、古典的な「圧迫止血」も依然として最重要です。悪性腫瘍の歴史は高々200年ですが、外傷診療の歴史は古代からあるにも関わらず、ある意味で最も発達しない、換言すれば「最新の診療とともに古典も重要視し、常に原点を意識する必要がある」、魅力的な分野と言えるでしょう。

 そこで今回のテーマは「観故考新(かんここうしん)」としました。これは漢書にある「覧古考新(古きを覧て新しきを考える)」から取った私の造語です。「覧」には、遊覧のように「ぼんやり見る」の意があり、「古」には「固い」の意もあるため、「注意深く全体と変化を見る」意の「観」と、「ゆえ」とも読める「故」に換えた次第です。似た表現に「温故知新」がありますが、これは実は「可以爲師矣(以て師となるべし)」と続き、良き師となるために、の意が含まれ、私の思いとは違うため避けました。

 英文テーマは 'The Newest for the Oldest'としました。The Oldestは、最も古くからある外傷学という意です。The Newestは、その外傷学に関して最新の診療は何か、という問いかけです。The newest tactics/surgery/interventionなど様々ありますが、先述したように、これらが「調和」してこそ最良の治療が生まれると考えますので、ポスターには'Harmony'という用語も入れ、スクラブにはト音・ヘ音記号が描かれています。

 コロナ禍はいまだ終息する気配はありませんが、社会的規制がなければ現地開催を予定しています。face-to-faceで十分な議論を行い、会員の皆様が満足して頂ける学会を目指しておりますので、ご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

謹白

閉会の挨拶

 第37回日本外傷学会総会・学術集会は、ご関係の皆様のお蔭をもちまして、無事盛会裏に終了することができました。幸いコロナ禍が明け5類感染症になり、すべて現地対面で開催することができました。ご参集いただいた皆様には心より感謝申し上げます。

 今回は大会テーマである「観故考新」の理念のもと、「会員の会員による会員のための」「実践的な」学術集会を意識しました。教育講演は全ての理事の先生方にお願いし、専門分野からご講演いただきました。各種セミナーには形成外科の先生方に依頼し、患者さんにとって唯一自分で見える「傷跡」について皆様に考えていただく機会を作りました。上級演題にはリハビリ、栄養管理、ターニケット、救えなかった命の徹底討論など、今までにない企画も盛り込み、多くの演題をいただきました。皆様の興味もあったのではないかと拝察しております。

 個人的なことではありますが、私が今まで学術集会で「余計なストレス」と感じたものは、可能な限り排除するように努めました。原点回帰ではありませんが「きちんとやる」ことも意識し、基本的ルールを守ることの一つとして時間厳守もお願いしました。これらが参加者の皆様の満足度につながったか否かはわかりませんが、忌憚のないご意見をいただきたいと思います。

 学術集会には医療関係の各種企業様をはじめ、深谷市役所有志様、深谷市商工会(経営者クラブ)関係者様、道の駅花園様、深谷赤十字病院、ならびに春恒社様に多大なるご協力をいただきました。ここに深甚なる感謝を申し上げます。

 来年度、第38回日本外傷学会総会・学術集会は2024年4月25・26日に大阪で開催されます。また皆様にお会いできることをとても楽しみにしています。